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東京高等裁判所 昭和36年(ネ)2010号 判決 1963年4月24日

控訴人(附帯被控訴人) 国

訴訟代理人 舘忠彦 外一名

被控訴人(附帯控訴人) 田中正治郎 外一名

被控訴人 学校法人女子学院

主文

被控訴人学校法人女子学院に対する本件控訴を棄却する。

原判決中被控訴人田中正治郎に関する部分を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人田中正治郎に対し金三七八万七七六四円およびこれに対する昭和三三年八月五日からみぎ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人田中正治郎の従前の請求のうちその余の請求を棄却する。

本件附帯控訴(被控訴人田中正治郎の請求拡張部分)を棄却する。

被控訴人学校法人女子学院に対する控訴費用は、控訴人の負担とし、被控訴人田中正治郎との関係において生じた従前の請求に関する訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とし、附帯控訴について生じた分は附帯控訴人の負担とする。

事実

控訴人(附帯被控訴人、以下単に控訴人という)代理人は、従来の被控訴人らの請求につき、「原判決を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯控訴人(被控訴人、以下単に被控訴人という)田中正治郎の附帯控訴(請求の拡張部分)に対し、「附帯控訴人の附帯控訴を棄却する。附帯控訴費用は附帯控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴人ら代理人は、従来の請求につき控訴棄却の判決を求め、附帯控訴人田中正治郎の代理人は、附帯控訴として「附帯被控訴人は附帯控訴人に対し、金三〇八万〇三七八円およびこれに対する昭和三七年六月二一日から支払ずみまで年五分の割合の金員を支払え。附帯控訴費用は附帯被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は、当審において次のとおりつけ加えたほか、原判決事実欄に記載するとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の主張する事実)

一、(過失のないこと)

登記官吏が、登記申請にさいし、当該申請書に添付されている登記済証について、その真正に作成されたものであることを調査する義務のあることは認めるが、その調査についてはおのずから限度がある。右の調査を完全に行うとすれば、登記済証に押された庁印の印影を、保存されたその影と照合しなければならないことになるが、そのため予め、全国の官公署の庁印その長印の各印影を登記所において保存しなければならないことになり、およそ不可能なことであるから、けつきよく、証明の様式、印影の外形等により、経験にもとづき判断、調査する以外に方法がなく、登記官吏の調査義務もこのような範囲に限られると解すべきである。

本件の場合、その偽造文書は自庁に関するものであるから、自庁の当時の印影を記録保存し、一々照合して調査すべきであるとするならば、単に庁名変更の場合だけでなく、庁印を変える場合も、その都度これを記録保存しておき、これと照合しなければならず、またそのようにすると、事務量の多い登記所においては、二年ないし三年くらいで印章は摩耗するので、その印影の保存は勿論登記事務の処理も極めて繁雑となり、事務処理上混乱を生ずる。しかも、登記済証等に押捺される印影は摩耗し、押印にさいしても極めて多量のものを一時に行う関係上印影の鮮明を欠くものが生じ、また印肉の粗悪品を使用したような場合には印肉が紙ににじみ、印影が不明瞭となる等して現実に押捺された印影と記録保存してある印影とを照合してもその真否を確めることは容易でない場合が多く、むしろ事実上不可能であり、さらに照合をするためには、登記済証に押印してある印影について不審を抱くことが必要であつて、不審をもたれないものについてはけつきよく照合する機会がないことになるから、印影記録の保存がなされていても、発見できない場合が生ずる。

けつきよく、自庁において作成した文書についても右のような照合の措置をとることは不可能であり、その調査義務も右のような日常職務上の経験にもとづき必要とされる様式、印影の外形等により判断せざるをえないのであつて、それ以上の調査義務を負うものではない。

しかして、印影の文字、内容は、東京区裁判所麹町出張所印となつていても、かかる庁名の官署が全然なかつたものでなく、右出張所は司法事務局になる以前に現に存在し、しかも、東京区裁判所麹町出張所印の庁印が現に偽造文書作成の頃まで使われていたものであるから、単に庁名が異ることから直ちに不審を抱くことは不可能である。したがつて、本件において、登記官吏に過失はなかつた。

二、(因果関係がない)

登記官吏の訴外鳥海京から同関口猛也に対する本件所有権移転の登記処分行為と被控訴人らの損害との間には因果関係がない。

一般に損害賠償責任を負わせるには、損害の発生と原因たる違法行為の存することが必要であるが、その因果関係が認められるためには、単に違法行為がなかつたならば、結果たる損害が生じなかつたであろうというだけでは足りず、損害の発生が違法行為の通常の結果と一般的に認められるものでなければならないのであつて、本件の場合被控訴人らは、本件登記処分行為が完了した段階においてはなんら損害を蒙つておらず、この登記を信頼して目的物件を買い受けたために損害を受けたものであるから、本件登記処分行為により必然的に蒙つた損害とはいえない。すなわち、被控訴人らの損害は、違法な、事実に符合しない登記を実体に符合するものと信じて売主の所有に属しないものを買い受けたため生じた損害であつて、公信力を認めていない現行登記制度上の結果として生じたものである。したがつて、たまたま本件の場合、事実に符合しない登記が、登記官吏の過失にもとづいてなされたからといつて、被控訴人らの損害と右登記官吏の過失にもとづく登記処分行為との間に相当因果関係は存在しない。

そのように解しなければ、不動産登記法第四九条に違反して一旦登記がされた以上登記官吏は職権でその登記を抹消することが許されず、その登記を基礎にして順次登記簿上形式的に適法な登記申請があつた場合には、これを受理し、登記をせざるをえないにもかかわらず、国が常に右登記名義人すべてに対し損害賠償義務を負うことになつて不合理な結果を招来する。このような結果に対して、不動産登記法上それに相応する制度的補償が設けられているか、又は登記官吏において、違法な登記をいつでも職権で抹消できる制度が設けられていれば格別そのための保険基金制度も、職権による抹消も認められていない、(不動産登記法四九条第一、二号の場合を除く)我国ではそのような結果は是認できない。

現行登記法は、登記官吏に登記の基本たる実体関係が有効に成立しているかどうかは、申請書および添付書面から形式的に判断できるものを除き、登記官吏の審査の圏外にあり、登記の実体上の原因にもとづく登記の有効無効は私人間の解決に委ね、国家が積極的に関与せず、登記の実体については不干渉の立場を固持し、その登記を信頼することによつて損害を受けた者は、取引の相手方に対し、損害賠償の請求ができるにとどまり、国に対して損害賠償の責を負わせることができない。

三、(過失相殺)

以上の主張が容れられないとしても、被控訴人らは、本件損害の発生に対し自ら過失があり、控訴人の損害賠償義務は減殺さるべきである。すなわち、現行法上登記に公信力が認められていないのであるから、この登記に全面的信頼をよせ、登記簿上不動産物件の所有者となつているからといつて、その者を所有者と考えて取引すること自体に過失があるというべきである。登記に推定力が認められることは、登記が常に真実の権利関係と符合するものであることを認めるものではなく、訴訟の段階において、権利関係の事実の真否を決するについていずれとも判断ができない場合に登記上の権利者を真実の権利者と推定し、事件の解決を図らうとするものである。したがつて、不動産の取引に当つては、現に目的物件が存在するかどうかを確かめ、更に登記簿上の権利者が真実の権利者であるか否かを確認するのが実情であつて、被控訴人らにおいて本件取引に際し登記簿を調査することによつてはその調査義務を尽したとはいえず、単に一つの参考資料の調査をしたにすぎないのであつて、真の所有者を確認するための他の調査を怠り、本件物件を買受けたことは、被控訴人らに重大な過失があつたというべきである。

なお、登記簿上の所有者関口猛也が本件物件を取得した時期は、被控訴人らに売渡す以前僅か一ケ月に満たず、登記簿上から見ても、その真の所有者であるか否かについて不審を抱くべきであつたにかかわらず、調査の万全を期さなかつたことについても同様に過失がある。

四、(拡張請求に対する答弁)

1、被控訴人田中が本件宅地上に昭和三〇年七月ころ、木造平家建家屋一棟(三三坪)を建築し、昭和三六年三月判決にもとづき右家屋を取りこわして収去し、本件宅地を訴外鳥海京に明渡したこと、および右家屋の建築費に金三三六万八〇二八円、所有権移転登記料に金四万八八五〇円を支出し、右家屋収去による取こわし材料金三三万六、五〇〇円相当があつた事実は知らない。その他の事実は争う。

2、右損害の請求は、これまでに主張してきたところと同一の理由によつて、失当である。

3、右損害はそれ自体としても、通常生ずべき損害とはいえない。

五、(消滅時効)

仮りに右拡張請求部分の損害が登記官吏の過失による通常の損害であるとしても、被控訴人田中が右損害を知つたのは、おそくとも、昭和三三年七月二五日である。すなわち、訴外高宮英一らの偽造行為につき、刑事裁判が確定し、被控訴人田中が訴外鳥海から本件土地の明渡等の訴を提起され、自己が本件土地に対する所有権、占有権原のないことを知り、従前の訴を東京地方裁判所に提起したのが昭和三三年七月二五日である。したがつて、この日から起算し、三年を経過した昭和三六年七月二五日をもつて、右不法行為にもとづく損害賠償債権は時効によつて消滅したものといわねばならない。

(被控訴人の主張)

一、(登記官吏の過失について)

1、登記済証の真否を調査するのに予め全国にわたる官公署の庁印およびその長の印影を保存する必要は全くなく、特定の登記所において、登記済証の真否を調査するに必要な印影は、当該登記所の現在および過去の印影だけである。他の登記所の印のある登記済証が提出されれば、登記済証の真否のための照合以前に管轄違として直ちに却下されるはずである。

2、自庁の印章が磨滅するから真否の確認が困難であるとの主張も、本末を誤つた議論である。印が次第に磨滅するのは登記所のそれに限るわけではなく、また仮に二、三年で印が磨耗し、また一旦押された印影がぼやけてくるとしても、それだから印影を保存し、対照しなくてもよいというものではない。現に原審証人松本英一郎の供述によれば、本件以後登記済証の庁印等を当該登記の庁印等と対照してその真偽を審査することが励行されるにいたつたことが明らかであり、このことからも対照が不可能だとする控訴人の主張は誤つている。

3、偽造に使用された印が真正なものと寸分違わないものでないことは原審証人高宮英一の証言によつて明らかであるのみならず、原判決が判示するように、登記官吏が真正な印影と対比してみたならば、昭和二二年九月六日当時既に使用していない東京区裁判所麹町出張所名義の偽造印影は、当時の真正な「東京司法事務局麹町出張所」の印との差異を一見して発見できたはずであつて、その対照義務を登記官吏が尽くしていたならば、偽造印がかつての「東京区裁判所麹町出張所」の印と寸分違わないかどうかにかかわりなく、容易に偽造を発見できたはずである。

4、形式的審査権しか与えられないということは、決して実体関係の存否がすべて審査の対象から排除されていることを意味するものではない。申請書および添付書面から形式的に判断できる実体関係の存否が登記官吏の審査権限の範囲内にあることは控訴人自身も認めており、不動産登記法は登記の実体を無視してどのような内容の登記がなされるかについて、全く無関心であつてこれに関与しない訳でなく、形式的審査の範囲において登記面と実体面とを一致させるよう規制しようとしているものである。

二、(因果関係について)

1、本件登記処分行為が完了した段階においては、まだ損害は発生していないけれども、不法行為の完了時と損害の発生とが同一であることはごうも必要でない。

2、我国の登記制度上不動産の登記については、公信力はないが、右登記は当事者自らの意思にもとづき、国家の関与により、国家の公簿に厳格な形式要件審査を経て登録されたものとして現実に公示力、推定力、対抗力等強い効力が認められるのであり、一般取引社会のこれによせる信頼もまた大であり、不動産取引の実際はこの登記を中心に営まれるのであつて、公信力がないことだけから、無能力者、錯誤、取引の実体関係における瑕疵によつて生じたものでない本件のような損害が「制度上の結果」として生ずるものではない。登記を尊重することは、不動産取引の秩序の尊重であり、国が自らこれを否定することは目的違背というべきである。

本件はまさに登記官吏が過失によつて厳格なるべき形式的審査を怠つたことによつて生じたものである。この結果、我国の登記制度の建前としている公示力、推定力、対抗力のいずれもが欠缺している登記を生じたことによつて被控訴人らの損害が発生したのである。

控訴人は違法な登記が一旦なされると、職権によつて抹消できないから、国が責任を負うのは不合理であるというが、本末顛倒の論である。職権抹消ができないかどうかは別として、そもそも本件はなすべからざる登記が一旦なされたことについて登記官吏の過失があると主張するものであつて、「なされた以上どうにもならない」からといつて、因果関係が左右されるものではない。有責違法な行為に出でた者は、その蓋然的結果である損害の賠償の責に任ずるのが、不法行為の一般原理であつて、後日当該違法行為を取消したり、あるいはその結果を除去することができないかどうかによつて賠償責任の有無が左右されるとの法理は存在しないし、特に登記官吏に限り国家賠償法第一条の一般原則の適用が排除されると考えるべき根拠はない。

登記官吏の過失により、一般国民が受けた損害を国が賠償するための特殊な制度が設けられていないことを国の賠償責任を否定する根拠とすることはできない。国家賠償法第一条の一般規定が存する以上、国家賠償を求めるにつきそれ以上に個別的根拠規定のあることを必要としないことは明らかである。まして、保険基金制度がないから賠償請求に応ずる必要がないというのは、論外である。不動産登記法に違反した登記に基いて順次登記がなされたときでも、対価をえて、他に譲渡すれば後日登記が無効であることになつても損害は生ぜず、結局国が賠償すべき損害は最後の譲受人において支払つた額に限られることになり、不動産の時価を越えることはなく、移転登記を受けたすべての人に損害賠償をしなければならないということは全くありえない。

三、(損失相殺について)

本件の損害は既に述べたとおり、登記簿上表示しえない実体関係の瑕疵ではなく、登記官吏が形式的要件の審査を怠つた結果全く誤つた登記簿の表示が記載されたことに起因するのである。被控訴人らは、我国の登記制度が認めていない公信力を信じたのではなく、登記に認められている推定力、公示力を信じたところがそれが真実に違背していたため損害を蒙つたものである。損害発生について被控訴人らに過失はない。大審院判例(大正一五年一二月二五日)も登記簿上所有者と表示されている者をもつて真実の所有者と信ずるのは特別の事情ない限り何ら過失がないことを承認している。のみならず、被控訴人女子学院は訴外住友信託銀行をして、被控訴人田中は岸本不動産株式会社という専問の不動産仲介業者をして調査させたうえ、買取つたのである。専問の不動産業者ならば格別、一般国民に登記簿以外に前所有者の調査をする義務があるとすることは不可能を強いるものである。そうでなければ、形式的要件の欠缺による瑕疵を発見しえなかつた登記官吏の責任の一部を被害者である国民が分担することになり甚だしく不合理である。

四、(附帯控訴〔拡張請求〕について)

1、被控訴人田中は本件宅地の所有権移転登記を受けて間もなく、昭和三〇年四月ごろから右土地上に家屋建築工事にとりかかり、約三五〇万円を要して同年七月頃木造平家建家屋一棟(建坪三三坪)をほぼ完成した。

2、ところが、訴外鳥海京から昭和三〇年八月被控訴人田中に対し、右土地の移転登記抹消手続、土地明渡の請求がなされ、東京地方裁判所において昭和三四年一一月二一日被控訴人田中の全部敗訴の判決言渡があり、控訴審においても昭和三五年一一月二六日控訴棄却の判決があり、やむなく昭和三六年三月本件地上の家屋を取こわし、本件宅地を訴外鳥海に明渡すにいたつた。

3、この間被控訴人田中は次の損害を蒙る結果となつた。

(一)、家屋建築費合計 三三六万八〇二八円

(二)、所有権移転登記料 四万八八五〇円

以上合計 三四一万六八七八円

しかして、本件家屋の取毀材の価額金三三万六五〇〇円を差引くと、被控訴人田中が右によつて蒙つた損害は金三〇八万三七八円である。よつて、右金額および右請求を記載した準備書面を控訴人に送達した日の翌日である昭和三七年六月二一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を拡張して請求する。

五、(消滅時効について)

1、控訴人の時効の抗弁は、時機に遅れて提出されたものとして民事訴訟法第一三九条により却下さるべきである。すなわち、被控訴人田中の請求拡張は昭和三七年六月二〇日付準備書面をもつてなされたものであるが、その後控訴人は同年八月三〇日付準備書面にもとづいて答弁し、同年九月三日証拠調をして両当事者とも新らたな主張立証はないと申立てて、口頭弁論を終結したところ、その後控訴人は時効の抗弁を書面をもつて申立てたのであるが、攻撃防禦方法は別段の規定を除き、口頭弁論終結にいたるまでこれを提出することができるのであつて、既に一旦控訴審が口頭弁論を終結した後にいたつて新に抗弁を提出することは、右規定に反し、時機に遅くれたものというべきである。

被控訴人田中は、拡張請求に対しては充分な答弁をすることを要請し、裁判所も事前に必要な主張をつくすことを命じて二ケ月余も先に期日を指定したのである。しかるに、控訴人はいつたんは新たな主張立証がない旨明言し、口頭弁論を終つたにもかかわらず、あえて口頭弁論終結後に抗弁を提出したのは重大な過失によつて時機に遅くれて提出したものであり、これによつて訴訟が遅延することが明らかであるから右抗弁は民事訴訟法第一三九条により却下さるべきである。

2、(一)、被控訴人田中が損害を知つたのは別訴(鳥海京の被控訴人田中に対する訴)第一、二審判決によつてである。被控訴人田中が訴外関口猛也から買い受けた本件土地の所有権が被控訴人田中に移転していないことすなわち家屋に対する損害を知つたのは、原告鳥海京、被告田中正治郎間の土地所有権移転登記抹消、家屋収去土地明渡請求訴訟事件に関して昭和三四年一一月二一日東京地方裁判所が被告田中に本件土地所有権が移転しないとして全部敗訴の判決を言渡したときであり、これを確知したのは、東京高等裁判所が昭和三五年一一月二六日右事件につき控訴棄却の判決を言渡したときである。被控訴人田中は訴訟提起を知つて後も、鳥海と訴外関口とがいかなる関係にあるかを知ることができず、自己の権利関係については、半信半疑のまま一方において訴外鳥海の請求を争つて本件土地に対する自己の完全な所有権を主張しつつ、予備的に本件訴訟を国に対し提起したものである。

民法第七二四条前段にいう「損害及び加害者を知りたる時」とは、本件の場合、裁判所によつて、一応田中に所有権がないとの判断を示したときと考えるべきである。特に本件のごとき抽象的な権利の存否に関する事件においては、果して所有権が適法に移転したかどうかは高度に法律的な判断と慎重な証拠調を要するものであり、被控訴人田中において損害があつたか否かは判決以前は未定の問題であり、裁判所によつて自らの権利が存しないことが確定されない以上権利の有無は未定であつてその損害及び不法行為者を知つたということはできない。

(二)、本件家屋収去による損害は、昭和三六年三月にはじめて発生したものであり、右損害賠償請求権の消滅時効の起算は右時日からなさるべきである。前記法条にいう「損害を知りたるとき」とは必ずしも損害の程度又は数字を諒知することを要するものではないが、「損害の発生したこと」を了知することを要するものである。

被控訴人田中が本件土地の上に建てた本件家屋は、その土地の所有権の帰属いかんにかかわらず、被控訴人田中の所有に属し、現にそれを使用している以上直ちにその家屋建築費が損害になるとはいえない。土地代金相当の損害と家屋収去による損害とは別個の損害であつて、土地所有者から請求を受け、その家屋を収去あるいは取こわすことによつて家屋所有者はその家屋の所有権を失い、はじめて損害が生ずる。したがつて、土地代金相当の損害を知つたからといつて家屋収去による損害を了知したことにはならない。

消滅時効制度は権利の上に眠る者を保護しない趣旨でもうけられたものであるから、未だ現に損害を受けていない別種の損害部分についてあらかじめ将来にむかつて請求しなかつたことを理由として時効により権利が消滅したとするが如きは時効制度の本旨に反すること明らかである。

(三)、仮りに本件建物に対する損害が土地代金の損害と同時に発生し、これを了知していたとしても、従来の訴提起により時効が中断されている。すなわち、裁判上の請求が時効の中断事由となる理由は、権利の上に眠る者を保護しないという時効制度の実質的理由を消滅させるところに存するが、本件のように訴をもつて、不法行為を原因とする損害賠償請求がなされた以上同一の不法行為にもとづく損害の訴訟も潜在的に係属しており、従前の訴訟において一部の損害しか請求しない旨を明示せず、後に請求を拡張することによつてこれを顕在化したにすぎないのであるから従前の訴訟提起をもつて、拡張部分の請求についても時効中断があつたと考えるのが相当である。

(証拠関係)<省略>

理由

一、(偽造文書による登記申請の受理)

1、別紙目録<省略>記載の土地が、訴外鳥海京の所有で、登記簿上も同人の所有となつていたところ、昭和二九年一〇月一一日東京法務局麹町出張所受付第一四五六六号をもつて、所有権移転登記(以下本件登記という)がなされていることは、当事者間に争がないところ、成立に争のない甲第一ないし第四号証、第九号証の一ないし四、第一一号証および第五号証の一二の存在、原審における証人高宮英一、同林松星の各証言を総合すると、訴外高宮英一らは所有者鳥海京の意思にもとづかず、鳥海の前所有者玉置源一郎から鳥海京に対し別紙目録記載(一)、(二)の土地を譲渡した旨の登記済証(昭和二二年九月六日付、売渡人玉置源一郎、買受人鳥海京、東京区裁判所麹町出張所受付第五三〇一号と記載されていることは当事者間に争がなく、代理人司法書士、千代田区富士見町一番地堅田一と記名印を押しているほか真正の登記済証と同一の記載押印のあるもの)、鳥海京の委任状、所轄町長名義の印鑑証明書等登記に必要な書類一切を偽造し、これら書類を訴外関口猛也に交付し、同人において右書類にもとづき昭和二九年一〇月一一日本件登記申請をしたところ、東京法務局麹町出張所の登記官吏はこれを受理し、実体上の権利移転を伴わない前記所有権移転登記がなされたこと(右登記申請書が受理され、右登記がなされたことは当事者間に争がない)が認められ、他に右認定を左右する証拠は存在しない。

二、(公務員の過失)

1、公権力の行使に当る公務員

登記事務は、国家が私権のためにする公証行為に関する事務であつて、これを担当する登記官吏が国の公権力の行使に当る公務員であることはいうまでもない。

2、登記官吏の審査権、注意義務

不動産登記法施行細則第四七条は「登記官吏が申請を受理したときは、遅滞なく、申請に関するすべての事項を調査すべし」と規定し、同法第四九条は一号ないし一一号の事由につき、申請を却下すべきこと定めているが、いかなる範囲で、登記申請につき調査すべきかについて明定していないが、登記官吏は少くとも、登記申請の形式的適法性を調査する職務権限があることは明らかであり、申請者が適法な登記申請の権利、義務者又はその代理人であるか否か、登記申請書及び添付書類が法定の形式を具備しているか否か等を審査しなければならないが、その審査に当つては、添付された書面の形式的真否を、添付書類、登記簿、印影の相互対照などによつて判定し、これによつて判定しうる不真正な書類にもとづく登記申請を却下すべき注意義務が要求されるものといわねばならない。

そして、登記申請書類中には登記済証が含まれる(不動産登記法第三五条第一項第三号)から、その審査についても右と同様の注意義務が要求されることはいうまでもない。

3、審査義務違反

(一)、本件登記申請書およびこれに添付されていた委任状印鑑証明書等が偽造であることが登記官吏の形式的適法性の審査によつて看取できなかつたとしても、本件登記に添付された登記済証の記載内容は前記認定したとおりのものであつて、右登記済証が作成された日付として記載された昭和二二年九月六日当時官制上存在していなかつた東京区裁判所麹町出張所の庁印が押印されており右押印の事実は前に認定したとおりである。当時本件登記の所轄登記所の官制上の名称が東京司法事務局麹町出張所であることから考えれば、押捺された庁印の印影自体から又は当時の真正な印影と対照により容易に不真正なものであることが明らかに看取できたはずであつて、これに気付かず、看過し、右登記済証を真正なものとして、本件登記申請を受理したことは、審査において当然尽すべき注意義務を怠つたものといわねばならない。

(二)、右登記済証の審査に当つて、登記済証明部分の登記官署印の一字、一句を綿密に調査、対照することは事情によつては事実上不可能な場合もありうるけれども、印影の総体的な照合、対照等によりその真偽を審査することは登記済証明部分の真偽判定のうえから、当然必要であると考えられ(そのため旧庁印の印顆、印影の保存、その使用期間を記録して明瞭にし衆知させておくなどの措置が望ましい)それらの措置や、印影の対照に多少の困難や支障が伴うからといつて、また自庁自身の証明にかかるものだからといつてその義務を免れるものではないし、本件では、前記のとおり、当時の真正な官制上の名称である「司法事務局」が「区裁判所」と表示されていたのであるから、一字一句を対照するまでもなく、前記のように総体的な対照によつても、発見できたものと認められる。

(三)、成立に争のない乙第一号証、第二号証の一、二によれば、東京区裁判所麹町出張所の名称は、昭和二二年五月三日ごろまで使用し、そのころ東京司法事務局麹町出張所と改められた後も「印章等制定に関する司法大臣訓令」により、従来の庁印を使用することが許され、昭和二二年九月三日(本件登記済証の日付の三日前)まで使用していたことが認められるけれども、右のように正規の官制上の名称と異る旧名称の旧印を使用することは、あくまで、やむをえずとられる一時的異例の措置であり、このような庁名と庁印とが一致しないことによつて後日の疑を解くためにも、少くとも旧庁印の印影とともに旧庁印の使用期間、新庁印の使用開始時期を明確に記録しておき、右のように正規の庁名と庁印の庁名とが一致しない登記済証明印に対しては、特に留意して常にその使用期間と対比し、その使用期間内であるかどうかの審査が正確に行われれば、充分発見できたものと認められる。

(四)、たとえ偽造印がかつての真正な東京区裁判所麹町出張所印と酷似し、又は全く同一であつたとしても、前記認定の注意義務を尽くせば当然看取できたはずであるから、登記官吏の過失はこれを以て否定できない。(なお前掲一の1掲記の証拠によれば、本件の偽造印が、真正なものと全く同一であつたとは認め難い。)

4、登記官吏が一日八〇件ほどの事件を取扱うため、定型的、迅速事務処理を要求されるとしても、それだからといつて、不動産登記関係法規に定められた前記審査を前記注意義務をもつてなすべき責務を免かれる理由はない。

三、(損害)

1、原審における証人山本五郎の証言、被控訴本人田中正治郎の尋問の結果およびこれにより、真正に成立したと認められる甲第六ないし第八号証、第一〇号証、前掲甲第五号証の一、二ならびに本件口頭弁論の全趣旨を総合すると、(1) 本件登記の結果本件土地は訴外関口猛也の所有として登記されていたところ、被控訴人田中正治郎は、右登記を信頼して、関口が実体上有効に本件土地の所有権を取得したものと信じ、不動産仲介業者である訴外岸本不動産株式会社にその仲介を依頼し、その斡旋により、昭和二九年一〇月二二日本件(一)の土地を代金三六二万二八五〇円で買受けてそのころその代金を支払い、同月二八日右岸本不動産株式会社に対し仲介手数料(報酬)として金二〇万七、〇二〇円を支払つたこと、(2) 被控訴人学校法人女子学院もまた右関口の登記を信頼し、同人が実体上有効に本件土地の所有権を取得したものと信じ、訴外住友信託銀行株式会社東京不動産部に委任し、同会社の仲介により、関口猛也から昭和二九年一一月一〇日本件土地(二)を代金一、一四一万二、二五〇円で買受けそのころその代金を支払つたことが認められるところ、前記関口が本件土地の所有者でなかつたことは前記認定のとおりであり、被控訴人らは関口に代金を支払つて買受けても実体上本件土地の所有権を取得することができないわけであるから、右それぞれ支払つた土地買受代金及び手数料のうち、宅地、建物業法第一七条にもとづく東京都告示〔昭和二八年告示第九九八号〕一に定めた率により一方当事者(依頼者)が負担する報酬額の最高額金一六万四九一四円(不動産取引業者に対する報酬は、特段の事由がなければ、取引当事者双方において負担するのが通常であり、一方当事者(依頼者)が右最高額を超えて負担したときは、その特段の事由及びこれを加害者において予見し又は予見しうべかりしことを主張、立証すべきところ、本件においてはその主張立証がない。なお本件売買において支払われた仲介手数料は反証がない限り、右限度において相当と認むべきである。)はそれぞれ被控訴人らの損害に帰するといぅべきである。

2、(一)、当審における証人田中成曜の証言およびこれにより真正に成立したと認められる甲第一二ないし第三四号証によると、(1) 被控訴人田中は昭和三〇年二月一一日訴外秋口広吉と建物建築請負契約を締結し、昭和三〇年四月ごろから右地上建物の建築にかかり建築費、畳、建具等合計三三六万八〇二八円を支払つて、同年七月ごろ木造平家建家屋一棟を建築所有していたところ、訴外鳥海京から昭和三〇年八月右被控訴人らに対し右土地の移転登記抹消手続、土地明渡の請求がなされ、第一、二審とも被控訴人ら敗訴判決を受け、昭和三六年三月ころ、右建物を取りこわし、本件宅地を訴外鳥海に明渡すにいたり、右建物の所有権を失い、右建築費の支出が結局損失に帰したこと。(2) 本件土地(一)の所有権移転登記に要した所有権移転登記料(印紙、手数料)金四万八八五〇円を昭和二九年一〇月二八日河田事務所に支払つたことが認められ、右認定を覆すに足る証拠は存在しない。

(二)、前記認定の建物建築費、畳、建具等の費用の合計額から被控訴人が自認するとおり右建物の取毀材の価額金三三万六五〇〇円を控除した金三〇三万一五二八円と右(2) の登記費用等合計三〇八万三七八七円は被控訴人の出捐にかかるもので帰するところ、被控訴人田中は登記簿を信用し本件土地を買受けたことにより右出捐額に相当する損害を蒙つたものといわねばならぬ。

3、本件土地の位置が、商業地又は住宅地に属することは公知の事実であり、登記簿上も宅地と表示されていたことは、成立に争のない甲第四号証によつて推認できるから、登記官吏において、右地上に建物が建築されることは充分予想できるところであつて、特別な事由に属しないうえ、現に建築された前記建物が極めて特殊、高額なものとは思われないから、前記建物の損害を直ちに登記官吏において予見しえない特別な損害とは考えられず、無権利の登記名義人から土地を買受けたことにより、通常生ずべき損害であつたと認められる。

四、(因果関係)

1、一般に損害賠償責任を認めるには、損害発生と、違法行為との間に相当因果関係の存することを要すると解すべきであり、また我国の登記制度上登記が公信力を認めていないことは控訴人主張のとおりであるが、登記に公信力がないことは登記官吏の過失の有無に関係なく、無権利者のために登記がなされたときはその登記の公示にかかわらず、登記名義人と取引した者でも実体上の権利を取得しないことの消極的な意味をもつにすぎないものであつて、登記官吏の違法行為によつて、実体上の権利を伴わない無効な登記が生じ、これを信じて無権利の登記名義人と取引し、所有権を取得できないのに、代金を支払つたなどのため損害を蒙つたときは、右損害は、登記官吏の違法行為がなく、右のような登記が生じなかつたならば、当然生じなかつたものと考えられるから、登記官吏の違法行為と損害との間の相当因果関係を否定することはできない。

2、また登記官吏に違法登記の職権抹消権限が認められていないことによつて、前記因果的関連が否定されるものでない。

3、登記の実体関係は登記官吏の審査の範囲外にあつて、国は登記の実体について直接関与しないとしても、登記官吏の形式的審査における過失に起因する実体上の損害に対して国が常に無責任であると考える根拠はない。

また控訴人主張のように無効な登記のために生じた損害を国が賠償するための保険基金制度が存在しないからといつて、前記因果的関連を否定し、国家賠償法に定める賠償責任が当然免責されると考える理由はない。

五、(過失相殺)

1、前記のとおり、我国の登記には公信力がないから、それが無権利者のための登記であるときは、登記名義人から買い受けてもその権利を取得することができないのであるから、登記簿を調査しただけではこれを防ぎえないことは控訴人のいうとおりである。しかし登記の公簿としての権利推定力は失われないから、登記簿に所有者として表示されている者を実体上の所有者と信ずることは反証のないかぎり過失があるということはできないのであつて、登記名義人が無権利者であることを知り又は知りうべき特別の事由がない限り登記簿の調査のほかに進んで実体上の権利の有無についてまで立入つて調査しなかつたとしても、過失があつたとすることはできない。登記上前所有名義人関口が本件物件を取得したとされている時期は被控訴人の取得するわずか一ケ月前であるとしても、またその売買代金が相当高価であるにしてもそれのみをもつて、右関口が無権者であることを知りまたは知りうべきであつたと考える理由はない。したがつて、右控訴人の主張は採用できない。

六、(消滅時効)

1、控訴人が時効消滅の抗弁を提出したのは、被控訴人主張のとおり、一旦当審における口頭弁論を終結した後(弁論を再開した口頭弁論期日)であることは記録上明らかであるが、そのことだけで直ちに時機に遅くれたということはできない。

攻撃防禦方法の提出は口頭弁論終結までになされなければならないことは控訴人主張のとおりであるが、裁判所が終結した弁論の再開を命じたばあい、別個の事由により、時機に遅くれたものとされない限り、その口頭弁論の機会において提出することが許されるものといわねばならない。

消滅時効の抗弁は、被控訴人田中が当審における再開前の最終の口頭弁論期日である昭和三七年九月三日始めて主張された附帯控訴(拡張請求部分)に対するものであつて、弁論終結後間もなく口頭弁論再開申立とともに右抗弁事由を記載した準備書面を提出し、口頭弁論再開後最初の口頭弁論期日において、右準備書面を陳述したのであり、しかもこのため特に証拠調等訴訟を著しく遅滞せしむべき訴訟行為をなすことを要しなかつたのであるから、これをもつて直ちに故意又は重大な過失により時機に遅くれて提出した防禦方法ということはできない。もつとも、これに対する被控訴人田中の答弁のため多少訴訟の完結が更に遅くれることにはなつたけれども、右のとおり故意又は重大な過失がない以上右抗弁の提出を民事訴訟法第一三九条によつて却下することはできない。

2、控訴人は遅くとも被控訴人において本訴を東京地方裁判所に提起した昭和三三年七月二五日当時本件土地の占有権原がなく、拡張請求部分の加害者、損害を知りえたから、同日から、時効が進行すると主張し、被控訴人は建物を収去したときから進行すると主張するが特段の事情のない限り、被控訴人田中において本件土地(一)の部分の所有権が訴外鳥海京の所有に属することを知つたときに、その地上建物は収去しなければならないことになり、その投じた建築費その他の出費が損失に帰すべきことを知つたものと認むべく、したがつてその時から時効の進行が開始するものというべきである。ところで被控訴人が従前の請求につき東京地方裁判所に訴を提起したのは昭和三三年七月二五日(このことは記録上明らか)であるから、少なくともこの時において、本件土地(一)の部分の所有権が訴外鳥海京の所有に属することを知つたものと考えられ、したがつて、前記説明のとおり、被控訴人田中は、右鳥海に対し、右地上の本件建物を収去する義務を負い、前記認定の右建物に投じた建築費その他の出費合計金三〇八万三七八七円が損失に帰したことを知つたものというべく、この時から右建築費等の出資による損害賠償請求の消滅時効は進行するものといわねばならない。

もつとも、被控訴人田中は右訴訟において、右建物の損害と同一の登記官吏の不法行為を主張し従前の請求部分について、裁判上の請求をしているのであるが、右の請求の対象は、本件土地の所有権を取得しえないで代金等を支払つたことによる損害に限定されていて右土地上に建築された建物の建築等のため投ぜられた費用等の損害は訴訟の対象となつていないから、従前の請求の訴提起によつて時効が中断されるのは従前の請求範囲に限られ、後の請求拡張部分にまで中断の効力が及ぶものではないといわねばならない。そうすると、右拡張せられた損害の賠償は、前記認定のとおり昭和三三年七月二五日から時効の進行を開始し、当審において、附帯控訴を提起し、請求を拡張する以前である昭和三六年七月二五日をもつて三年の消滅時効が完成し、右損害賠償請求権は消滅したものといわねばならない。

七、(むすび)

以上のとおりであるから、控訴人は被控訴人田中に対し金三七八万七七六四円、被控訴人学校法人女子学院に対し金一、一四一万二、二五〇円およびこれらに対する本件訴状が控訴人に到達した日の翌日であること記録上明らかな、前者につき昭和三三年八月五日から、後者につき同月九日から各支払ずみまで民法所定の年五分の遅延損害金を支払う義務があり、被控訴人学校法人女子学院の請求は正当であるから同人に対する本件控訴はこれを棄却すべく被控訴人田中の従前の請求は前記金三七八万七七六四円及びこれに対する前記遅延損害金の限度で正当であつて、その余は失当として棄却すべきであり、原判決は右の限度で変更すべく被控訴人田中の附帯控訴(請求拡張の部分)は失当として棄却されるべきであり、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九二条但書、第九五条、第九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 牧野威夫 菊池庚子三 渡辺卓哉)

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